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2026/08/25 11:33

珈琲の精製方法と味わい

前回は「珈琲の品種と味わい」についてお話しました。ブルボン、ティピカ、ゲイシャなど、珈琲にもさまざまな品種があり、それぞれに特徴があることをご紹介しました。ただ、珈琲の味は品種だけで決まりません。同じ品種、同じ産地であっても、収穫したコーヒーチェリーをどのように生豆にするかによって味わいは変わってきます。それが今回のお話、「精製方法」です。精製というと少し難しそうですが、仕組み自体はそれほど複雑ではありません。私たちが普段「珈琲豆」と呼んでいるものは、コーヒーチェリーという果実の中にある種子です。つまり農園では、収穫した果実からこの種子を取り出し、乾燥させなければなりません。その「果実をどう取り除き、どう乾燥させるのか」が精製です。そして、この方法の違いが珈琲の味わいにも影響してきます。今回は代表的な精製方法を見ていきましょう。

ナチュラル ( 果実のまま乾かす)
まずは「ナチュラル」日本語では「非水洗式」や「乾式」と呼ばれます。方法はとてもシンプルで、収穫したコーヒーチェリーを果実のまま乾燥させます。 しっかり乾いたあとで果皮や果肉を取り除き、中の種子を取り出します。イメージするなら、ブドウをレーズンにしてから中の種を取り出すような感じでしょうか。古くから行われている精製方法で、現在でもエチオピアやブラジルなど、さまざまな国で使われています。味わいは一般的に、果実感が豊かで、甘さや厚みを感じやすい傾向があります。ベリーや熟した果実、ワインのような香りをじるものもあります。そのため「フルーティーな珈琲が好き」という方は、精製欄に「Natural」と書かれた豆を試してみると面白いかもしれません。もちろん、ナチュラルだから必ずフルーティーというわけではなく、品種や産地、乾燥方法などによって味わいは変わります。

ウォッシュド (果肉を取ってから乾かす)
続いて「ウォッシュド」日本語では「水洗式」です。ナチュラルとの大きな違いは、乾燥させる前に果肉を取り除くことです。果皮や果肉を取り除くと、種子を包んでいる殻の周りにはヌルヌルとした粘液質が残ります。これを「ミューシレージ」と呼びます。ウォッシュドでは、このミューシレージも発酵などによって取り除き、水で洗ってから乾燥させます。ものすごく簡単に言えば、ナチュラル=果実のまま乾かす、ウォッシュド=果実を取ってから乾かすという違いです。味わいは一般的に、すっきりしていて、酸味や香りの輪郭を感じやすい傾向があります。ナチュラルとウォッシュド、この2つを覚えるだけでも、珈琲豆のラベルがだいぶ読みやすくなります。

パルプドナチュラル (その中間もあります)
では、「果皮は取るけど、ミューシレージは残したら?」という方法もあります。それがパルプドナチュラルです。果皮を取り除き、ミューシレージをある程度残した状態で乾燥させます。つまり、ナチュラルほど果実を残さず、ウォッシュドほどきれいに取り除かない。両者の中間のような方法です。特にブラジルでよく知られており、味わいも一般的には、ナチュラルのような甘さや厚みと、ウォッシュドのようなすっきり感の両方を感じることがあります。そして、これと非常によく似た方法が次に出てくる「ハニー」です。

ハニー (名前に「ハニー」と付くけれど)
ハニープロセス。名前だけ聞くと「珈琲豆に蜂蜜を付けるの?」と思いますよね。でも、蜂蜜は一滴も使いません。これ、ちょっと人に話したくなる珈琲豆知識です。ハニーも、果皮を取り除き、ミューシレージを残した状態で乾燥させる方法です。そのため、先ほどのパルプドナチュラルとは非常に近い精製方法です。名前の由来には、種子の周りに残ったミューシレージが粘り気を持ち、蜂蜜のように見えることが関係しています。さらにハニープロセスを見ていくと、ホワイトハニー、イエローハニー、ゴールド/ゴールデンハニー、レッドハニー、ブラックハニーといった名前を目にすることがあります。「珈琲なのに急にカラフルになったな」と思いますよね。この違いは主に、ミューシレージをどの程度残すか、そしてどのように乾燥させるかに関係しています。一般的なイメージとしては、ホワイトは比較的すっきり、イエローはすっきり感と甘さのバランス、レッドは甘さや果実感を感じやすく、ブラックはより濃厚で熟した果実のような印象になることがあります。ゴールド/ゴールデンハニーという名称も実際に使われています。ただし、ここで一つ覚えておきたいのが、ハニーの色分けには世界共通の厳密なルールがないということです。農園によってミューシレージの残し方や乾燥方法、名前の付け方が違いますので、「ブラックハニーなら必ずこの味」というものではありません。色はあくまで、その珈琲の味を想像するヒントくらいに考えるのがちょうどいいと思います。

スマトラ式 (乾く前に殻を取ってしまう)
次はインドネシア独特の精製方法、スマトラ式です。現地では「ギリン・バサ」と呼ばれ、英語ではWet Hulledと表現されます。通常の珈琲は、種子を覆う「パーチメント」と呼ばれる殻を付けたまま十分に乾燥させ、そのあと殻を取り除きます。ところがスマトラ式では、まだ水分が多く残っている段階でパーチメントを取り除いてしまいます。そして、その状態からもう一度乾燥させます。なぜそんなことをするのでしょうか。背景には、インドネシアの雨が多く湿度の高い気候や、生産・流通の仕組みなどがあります。一般的には、しっかりしたコク、穏やかな酸味、ハーブやスパイスを思わせる風味を感じるものがあります。マンデリンが好きな方なら、「あの独特な感じか」と思うかもしれません。

最近よく聞く「アナエロビック」って何?
ここから少し話が変わります。最近、スペシャルティ珈琲でよく見かけるのが、アナエロビックという言葉です。ここで大事なのが、アナエロビックはナチュラルやウォッシュドとまったく同じ分類ではないということです。ナチュラルやウォッシュドは、果実をどう処理して乾燥させるかという話。アナエロビックは、どんな環境で発酵させるかという話です。なので、アナエロビック・ナチュラルという珈琲もあります。最初はややこしく感じますが、精製方法+発酵方法と考えると分かりやすいですね。「Anaerobic」は、酸素のない、あるいは少ない状態を意味します。珈琲では、密閉したタンクなどにコーヒーチェリーを入れ、酸素を制限した環境で発酵させる方法として使われています。発酵する時間や温度などをコントロールすることで、従来とは違った風味を引き出そうとします。高品質なものでは、トロピカルフルーツ、熟した果実、ワイン、スパイスなどを思わせる、とても個性的な香りが出ることがあります。初めて飲むと「これ、本当に珈琲?」と思うくらい個性的なものもあります。ただし、アナエロビック=この味ではありません。発酵時間や温度、その後の精製方法によって仕上がりは大きく変わります。

カーボニックマセレーション (名前は難しいけど仕組みはシンプル)
さらにもう一つ、カーボニックマセレーションという方法があります。名前だけ聞くと、ちょっとラスボス感がありますよね。でも考え方は意外とシンプルです。もともとワインでも知られている技術で、珈琲ではコーヒーチェリーをタンクに入れ、二酸化炭素(CO₂)の多い環境をつくって発酵させます。アナエロビックと似ていますが、単に酸素を少なくするだけではなく、CO₂を使って発酵環境を意図的につくるところがポイントです。高品質なものでは、華やかな果実香、トロピカルフルーツ、赤い果実、ワインのような香りを感じることがあります。近年のスペシャルティ珈琲は、「果肉をどう取るか」だけではなく、「発酵そのものを使って、どんな味を引き出すか」というところまで進んできているんですね。

いろいろな名前が出てきましたが、全部覚える必要はありません。ざっくり整理すると、ナチュラルは果実のまま乾燥して果実感や甘さを感じやすい。ウォッシュドは果肉を取ってから乾燥し、すっきりした印象になりやすい。パルプドナチュラルやハニーはミューシレージを残して乾燥させ、甘さとすっきり感の中間的な特徴を持ちやすい。スマトラ式は乾き切る前に殻を取り、独特のコクや風味につながることがある。アナエロビックは酸素を制限して発酵させ、カーボニックマセレーションはCO₂を使って発酵させる方法、というイメージです。

精製が分かると、豆の袋を見るのがちょっと楽しくなる
次に珈琲豆を買う時、ぜひ袋を少し見てみてください。「Natural」「Washed」「Honey」「Anaerobic」なんて書いてあるかもしれません。今まではただの英語だったものが、「あ、これは果実のまま乾かしたんだ」「これは発酵を工夫している珈琲なんだ」と分かるようになります。もし同じ農園、同じ品種で、ナチュラルとウォッシュドの両方があったら、ぜひ飲み比べてみてください。「同じ珈琲なのに、こんなに違うんだ」という発見があるかもしれません。珈琲って、産地だけでもない。品種だけでもない。焙煎だけでもない。その前の、果実から生豆になるまでの工程まで味に関わっている。そう考えると、一杯の珈琲ってなかなかすごいですよね。そして誰かに、「ちなみにハニープロセスって、蜂蜜使ってないんだよ」とか、「アナエロビックって、実はナチュラルと同じ分類じゃないんだよ」なんて話したくなったら、もう十分、珈琲の沼に片足を突っ込んでいます。

それでは、ハヴァグッドコーヒータイム